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蛙亀の歩 第八回 『不敗神話の崩壊』

 フロッグスからトレードで燐外野手、にとり内野手の二名を獲得したタートルズ。燐は射命丸の移籍によって弱体化したセンターの補強に、にとりは左の代打要員と一塁の守備要員として期待されてのトレードだった。
 両選手はいきなり大暴れ。にとりは八回に代打で出場、追い込まれながらもボールを見極めきっちりとセンター前に弾き返し、燐は守ってはダイビングキャッチ、打っては追撃のスリーランと攻守に渡って大活躍。
 だが、打線は全セ先発の上原の前に沈黙。逆にタートルズ先発のメディスンは二本の本塁打を打たれて5失点。この先発投手の差が、そのまま結果に結びついた。

■完敗

 谷間の先発投手ながらシーズン、CS、日本シリーズを通して一度も黒星を記録していなかったメディスンが全セの主軸に完璧に呑まれ初めて負けた。
 完全な力負けだった。新井に許した二本のホームランはいずれも低めの難しい球。失投でもなんでもない。それでも新井は苦も無くスタンドへと運んだ。
「輝夜はコントロールミスじゃないって言ってくれたけど、私はそうじゃないと思う。新井に二本目のホームランを打たれた時、どこに投げても打たれるような気がしたんだ。私、投げる前から負けてた。私が弱かったから、チームも負けちゃったんだ・・・」
 敗戦の責任を一人で背負い込むメディスン。ただ、絶対に負けない投手などいる筈がない。この負けも、メディスンが成長する糧となるだろう。

■覚めた援護

 以前、『メディスンが先発すると打線が活発になる』と書いた。タートルズ打線はメディスンを援護しようと早いカウントから積極的に打っていった。だが、積極的すぎる打撃はヒットを打てなければ助ける対象は相手投手になってしまう。
 相手先発上原の投球数は72球。たったこれだけで八回三分の二を投げさせてしまった。理由は上原のストライク先行の投球と、焦って早打ちを繰り返してしまったからだ。
 上原相手への早打ちは決して悪い作戦ではない。常にストライクゾーンに投げ込んでくるのだし、追い込まれてしまえば霊夢並のフォークが待っている。ならば追い込まれる前に打つことが定石だが、今回の上原はそれさえも許してくれなかった。ノビのある直球とフォークでタートルズ打線を打たせて取り、ヒットを打たれてもゲッツーで効果的にアウトを稼いでいった。
「これは打てる、と思ってバットを振ったのに、打球は何故かヒットゾーンに飛んで行かなかった。なんというか・・・打てそうで打ち損じてしまうボールだったんだ。それに、メディスンのために打ってあげたい焦りもあった。だから私たちは早打ちを繰り返し、ミスもしてしまったんだ・・・」
五回。妹紅の打球はフラフラと三塁線に上がった。どう見てもファールフライになるような当たりだったが、三塁手の新井が捕球した時、一塁ランナーのフランドールは既に二塁近くまで走ってしまっていた。そこから一塁まで戻れるわけもなく、信じられない形の併殺。タートルズが五回までに記録した併殺は三つ。完璧に上原の手の上で踊らされてしまった。
 決勝トーナメント進出を前に足踏みしてしまったタートルズ。次のフロッグス戦に勝って、決勝進出を決めたいところだ。
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蛙亀の歩 第七回 『乾神落葉』

 タートルズからトレードで橙、てゐの両内野手と途中参加の八雲藍選手を加えたフロッグス。課題となっていた中継ぎ投手陣の補強はできなかったが、藍の加入によって有り余る打力を手に入れた。
 だが、弱点は弱点のままで何も変わっていなかった。フロッグスの先発静葉が先制した直後に満塁のピンチを招いて同点とされ、その後も毎回走者を出す苦しいピッチング。そして五回、ダムが決壊するかのように5連打を浴びて降板。リリーフ陣も八回に捕まってしまい、計7失点。打線も11安打でたった2得点と、繋がりを欠いてしまった。

■勝てない神様

 ペナントレースを勝ち抜いたタートルズ先発投手陣の中で唯一勝ち星を挙げられなかったのが静葉だ。シーズンでは八月二十日の巨人戦のように勝ち越し点を貰った直後にホームランを打たれるなど、味方に援護された直後に失点するケースが多かった。
 その所以もあってか、試合前は妹の穣子が声もかけられないほどの気迫で練習を行なっていたらしい。フロッグスのメンバー、特にタートルズで活躍していた面々の誰もが思った筈だ。今日の静葉なら勝てると。しかし運命の女神は非情だった。
「この回を投げきったら勝ち投手の権利が得られると思って、投げ急いでしまったの。制球が乱れることは無かったけど、素直すぎる投球だったわ・・・」
 きっかけは、この回四人目の打者、大村への投球だ。二球で追い込んだは良いのだが、コースは二球ともど真ん中へのストレート。相手が見逃したのが不思議なくらいだ。勝負球に選んだスライダーもまた真ん中内寄りに甘く入り、今度こそ大村はバットを振りぬいた。打球はライト、藍が伸ばしたグラブの手前一歩のところに落ちてしまった。続く川崎にも初球を捉えられ、頭の上を通るセンター前ヒットで勝ち越されてしまう。
 二死からの連打で焦ったのか、ピッチャー返しに怯んだのか、静葉はここで耐えることができなかった。ボールは吸い込まれるように甘いコースへ飛び込んだ。松中、カブレラにも連打を許して計5失点。見事に『野球はツーアウトから』という格言を実証してしまい、初勝利を手にするどころか負け投手になってしまった。
「私達(首脳陣)としては、静葉にシーズンの悔しさを晴らすような投球を期待していた。その気持ちは無論あったようだけど、如何せん空回りしすぎていたね。残り試合も少ないし、これから先発で使うのは難しいかな」
 首脳陣の信頼に背信で応えてしまった静葉。ヘッドコーチ兼任の神奈子は静葉の中継ぎ降格を示唆した。

■打てない神様

 静葉の不安定な投球にリズムを狂わされてしまったのか、強化した筈の打線も拙攻を繰り返した。注目すべきは六回。無死から椛と勇儀が連打で出塁し、打席には四番、神奈子が立った。初球を完璧に捉えたが、打球はピッチャー小林宏之のグラブに吸い込まれてしまった。最悪のゲッツー。その後は衣玖と藍が出塁して再度一二塁のチャンスを作るが、空が二ゴロに倒れて結局一得点。最高の形で回を始めたが、打線が繋がらず畳み込む事ができなかった。
 フロッグスにはタートルズで言うフランドールや妹紅のような一発を狙う選手が少ない。故に得点パターンは全員で繋ぐことになる。これがはまると相手に大きなダメージを与えられるのだが、誰かがブレーキをかけてしまうとチャンスが一気にしぼんでしまう。それが主軸ならばなおさらだ。
 この試合、神奈子は四打数無安打。いずれも走者がいた場面での打席だった。得点圏も二度。だというのに、走者を帰せなかった。
「前(勇儀)と後ろ(衣玖)の二人がよく打ってたのに、私だけがクリーンアップの仕事ができなかった。私のせいで負けた、と言っても過言ではないだろうね」
 小林宏之から放ったヒットは十一本。うち十本が二、三、五、六番の四人が打ったものである。しかし彼女らに挟まれた神奈子が流れを止めてしまったが為に得られる筈だった点をいくつ無駄にしてしまったのだろうか。
 連敗したフロッグス。全セとタートルズの試合次第では決勝進出の道が狭まってしまう。もう負けるわけにはいかない。これからはタートルズ以上の全員野球を心がけ、戦っていくしかないだろう。

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