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守矢神社の最後の神事:前

 諏訪子が寝込んでから、もう一週間になる。
 彼女の体調は一向に回復せず、日に日に悪化しているのは誰の目から見ても明らかだった。
 永遠亭の永琳にも診てもらったのだが、彼女にも原因、治療法がわからなかった。
 永琳が匙を投げる。これ以上ない最後通告を、早苗は受け入れられるわけがなかった。

「諏訪子様。……お召し物、お取り替えますね」

 力無く呼吸するが、意識はある。諏訪子が微かに頷くのを確認して、早苗は汗をびっしょり吸った寝巻きを脱がし始める。
 元々かなり小さな、というより幼い身体の諏訪子だが、今ではそれが痩せ細り、見るも耐えない体躯となってしまった。
 目頭が熱くなるのを必死に堪え、新しい寝巻きを着させると、諏訪子の口が動く。声は聴こえないが、口の動きからして『ありがとう』と言っているようだ。

「当然の事をしただけですよ。では、私はこれで」

 言い残して、諏訪子の部屋を後にする。
 倒れた直後は今より元気があったのだが、ずっと傍にいて一日中看病をしようとしたら『用が終わったら一人にして、休めないから』と部屋を追い出されてしまったのだ。
 本当はずっと諏訪子の傍にいたいのだが、そうすると早苗も倒れてしまうかもしれないという諏訪子の配慮だろう。

「諏訪子はどうだい」

 廊下で神奈子が待っていた。腕を組みどっしり構えている姿は、見るものを安心させるような何かを感じさせてくれる。
 心の中で押し殺し、表に出さないよう必死に塞き止めていた気持ちが溢れ出しそうになる。

「っと、おい。よしよし」

 神奈子に倒れ掛かるように抱きつく。結構な勢いが着いた筈なのにしっかりと受け止めてくれた。
 ぎゅっと眼を閉じて耐える。ここで泣いてはいけない。そんな気がしたのだ。
 そんな早苗を、神奈子は優しく撫でる。心配で心が壊れそうな子供をあやす親のように。

「神奈子様、諏訪子様は、どうして」

「…………」

 一週間前、湯呑みの割れる音に驚いた早苗が音に駆け寄ると、そこには諏訪子が倒れていたのだ。
 諏訪子は早苗の知る限りでは病気の類にはかかったことはないし、神にとって死活問題である信仰も幻想郷に移住してからは大量に得られている筈。
 神をも殺すと言われる退屈とも、幻想郷という騒がしい世界では無縁。なのに諏訪子が倒れる理由なんてない。
 抱きついた姿勢から、顔を上げ、神奈子の眼を見上げる。
 早苗が滅多に見せない、怒りを込めた視線で。

「どうして、諏訪子様に会わないのですか」

 恐らく、神奈子は諏訪子に関する何かを知っている。そして早苗に隠している。
 何だかんだで諏訪子と仲の良い神奈子が一度も御見舞いに行かないことを考えると、この結論に行き着くのは当然だ。
 どっしりと構えた神奈子が、初めて揺らぐ。

「……知りたいか、早苗。諏訪子が倒れた理由を」

「ええ」

「そうか。ならば、少しここで待っていなさい。私は……諏訪子に話がある」

「え、諏訪子様は!」

「私の神力を分けてやれば、話すことくらいはできるだろうさ」

 早苗を引き剥がし、神奈子は諏訪子の部屋の戸を開けた。
 続いて早苗も部屋に入ろうとしたが、静かに振り返った神奈子と視線がぶつかる。
 絶対に入ってはならない。無言の圧力に気おされそうになるが、部屋の中の諏訪子もこちらをじっと見つめているのに気づく。
 踏み出していた足を元に戻すと、神奈子は微笑んだ。

「いい子だ。ちょっと時間がかかるからな」

 そっと、部屋の戸が閉められた。


   ◇


「早苗。いいよ。入ってきなさい」

 廊下で待っているうちに座り込んで眠ってしまっていたようだ。部屋の中からの声に驚いて眼を覚ます。
 そんな、嘘だ。この声は、だって。
 戸を開ける。力が入りすぎて戸が派手な音を立てた。
 部屋の中は。早苗はまたも驚く。

「そんなに焦らなくてもいいのに」

「諏訪子、様……どうして」

 あんなに痩せ細っていた諏訪子が起き上がって、以前と同じ元気な姿を取り戻している。
 喜ばしい事なのに、何故か受け入れられない。
 それは諏訪子を覆う不気味で、しかし神々しい気配と、傍らで倒れている神奈子の存在があったからだろう。

「神奈子様!?」

「神奈子は大丈夫だよ。私が最後の神事をするのに支障が無い程度に神力を貸してくれただけ。終わったらちゃんと返すから」

「最後の、神事?」

「うん、そう。正確には早苗の最後の、かな」

 諏訪子が軽く腕を振る。独りでに部屋の照明が消され、カーテンが閉まって外部からの光を遮断した。
 まだ夕方にもなっていないというのに、部屋は真っ暗でなにも見えない。
 しかし早苗にはみえていた。暗闇の中、無数の白蛇を召喚し使役している諏訪子の、最後の光が。

「東風谷早苗は、今日いなくなる」
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