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守矢神社の最後の神事:中

執筆時間
前編:2時間
中後編:5日

どうしてこうなった。前後編構成でもっと簡単に終わらせるつもりだったのに。

本文は追記の中にありますよ~。



「え?」

 諏訪子が告げた言葉がわからない。
 暗闇の中だが、諏訪子が自虐げに溜め息を吐くのが見えた。

「守矢の秘術は一子相伝、ってことは知ってるよね?」

「勿論です」

「それ、どうしてだと思う?」

 幻想郷に来る前、外の世界で風祝の職を継承した時、母から守矢に伝わる秘術を口頭で教わった。
 それは代々現人神を継承する者にのみ伝えられるもので、絶対に他の誰にも教えてはならないと硬く口止めをされた。
 当時はそういうものなのだと、何も疑問を抱かなかった。諏訪子に言われて、初めて考える。
 守矢の秘術が、一子相伝の理由。

「……あまり外部の人間に秘術の存在を知られたくなかったから?」

「ん~、40点くらいかな。確かにその通りなんだけど、本質は違う」

 ぺた、ぺた。裸足の諏訪子がこちらへ歩いてくる音がする。

「守矢の秘術は早苗のお母さんが伝えたものが全てじゃない。あと一つだけ、早苗に伝わっていないものがあるのよ。それは、神が現人神に憑依してその身体を奪う。ある意味で転生の儀式、かな」

「きゃっ!」

 早苗の身体に何かが絡みつき、動きを封じる。それが諏訪子の使役する白蛇だと気づくのに時間はかからなかった。
 緩く絡み付いているだけなのだが、蛇から逃げようと身をよじらせても全く動かない。
 蛇に睨まれた蛙とは、このことか。

「諏訪子様、どうして」

「……その質問、何回目だろうかな。よく聞いてね。」

 時は神代。諏訪地方の土着神として信仰を集めていた神様がいた。
 ある日神様は人間の男に恋をした。始めは神様を神様としか見ていなかった男は、次第に神様に魅かれ、一人の女として扱うようになった。
 『二人』は結ばれた。子供も授かり、幸せを噛み締めた。
 後、出雲から別の神様がやってきた。その神様は勝手に諏訪の地を自分の物だと主張し、諏訪の土着神に代わって信仰を集めようとした。
 当然土着神はそれに対抗し、諏訪大戦が勃発する。

「もうわかるだろうけど、諏訪の土着神は私。出雲からやってきた神様ってのが、そこで寝てる神奈子のこと。この戦いの決着も、当然知ってるでしょ?」

「諏訪の土着神は、当時最先端技術の鉄の輪で対抗した。しかし出雲の神が蔦で鉄の輪を結ぶと、鉄はたちまち錆びてしまった……」

「そ。私は神奈子に負けた。諏訪の地の信仰は神奈子のものになった。神奈子は何だかんだで優しい神様でね、私が消えないよう信仰心を私にも分けてくれた」

 しかし、諏訪子はこの頃から体調を崩すようになる。信仰が足りない訳でも、病気にかかったわけでもないのは諏訪子自身がよく理解していた。
 人間と交わり、神奈子に深手を負わされたことで、神としての力が弱まり自分の存在が揺らいでしまった。
 病床に伏した身体は、いかなる薬も信仰も、効果がなかった。

「半ば諦めてた。もう私は消滅してしまうだろう。けどそんな時、私の娘が……現人神が、身体を差し出した」

 諏訪子が消滅しかけているのは、諏訪子自身の身体が諏訪子の神の力に耐えられなくなったからではないか。当時の現人神はそう結論づけた。
 ならば、自分の身体に諏訪子を降ろし、自分の身体を諏訪子に使ってもらえば、諏訪子の命は救われる。
 現人神の命と引き換えに。

「当然私は反対した。けれど、現人神の決意は堅かった。圧される形で、私は現人神に降りて……身体を奪った」

 諏訪子は回復した。また今までどおり、神としての生活ができるようになった。
 しかし、現人神といえど所詮は人の身体。いつか必ず、神の力に耐えられなくなってしまう。
 その都度、諏訪子は現人神の体を奪ってきた。

「これが、守矢の最後の秘術」

 そして今。
 再度限界を迎えた諏訪子は、今までと同様に現人神の身体に降りようとしている。

「私は今まで、この時の為だけに、現人神として育てられたのですか」

「違うよ。私が限界を迎えるのはいつかわからない。それがたまたま、早苗の代だった。それだけの話さ」

 淡々と答える諏訪子。対する早苗の心中は乱れに乱れ、何が本心なのかわからない。
 自分が消える恐怖。突然終わりを告げられたやるせなさ。
 しかし、考えて気づく。諏訪子や、この『最後の秘術』に対しての怒りは、不思議と湧かなかった。
 そうだ。自分は守矢神社の現人神なのだ。

「諏訪子様。私の拘束を解いて下さい」

 白蛇が離れ、早苗は自由を取り戻す。
 そして、暗闇のためにおぼつかない足取りで、しかし諏訪子の元へと正確に歩を進め、

「さな、え?」

 諏訪子の小さな身体を抱きしめた。
 この行動は予想外だったのか、間抜けな声が上がる。

「何よ。こんなことして……私が考え直すって思ってるの?」

「いいえ。ただ、諏訪子様を抱きしめたかったのです。私は現人神として、守矢の最後の秘術を、受け入れます」

 きっと、これまで全ての現人神が同じ気持ちだったのだろう。
 自分が消えるのは怖い。けどそれ以上に、諏訪子が消えてしまうのが怖い。

「早苗……」

 諏訪子の身体が見た目よりも小さく感じられた。小刻みに震え顔を早苗の胸にうずめて涙を流す姿はもう神様ではなく、見た目どおりの小さな女の子のそれだった。
 いつも元気で、神様の威厳もあんまり無くて、けれど大好きで敬っていた諏訪子の新しい一面。最後に知れて、よかった。

「それじゃ、早苗……貴女の身体、頂きます」
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