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亀の歩 第十八回 『神々が恋した野球場』

 あれから――タートルズが日本シリーズを制してから一週間が過ぎた。幻想郷スタジアムは消え去り、同時に住民からも野球熱が覚めてしまったようだ。
 無論、私とて例外ではない。一週間前は野球の事しか考えていなかったのに、今では特に何を考えて過ごす訳でもなく、ただのんびりとした日常を送っている。
 この急激な住民の心変わりの裏には何か大きな力が働いているのかもしれない。が、原因を人である我々が探るのは愚の骨頂というものだ。幻想郷の実力者に楯突くなど、許されざる行為。
 野球は、幻想郷から抹殺されてしまった。

 何となく紅魔館球場に足を運んでみた。人里からは距離もあり吸血鬼の住処である紅魔館の傍まで行くことは危険極まりないが、半年にも及ぶペナントレースの後だ。紅魔館までの道も整備されており、妖怪が出現する気配もなかった。球場まで行って何をしようと思ったのか。正直わからない。本当に何となくだし、もしかしたら誰かに操られていたのかもしれない。
 日も沈みかけた頃にようやく到着。観客席には誰もいない。これが今の幻想郷における野球の価値観を表している様で多少寂しくなった。が、グラウンドではそれと正反対の光景があった。
 私が観たのはレフトに舞い上がる白球。悠々と二塁を陥れたのは十一冠王レミリアだ。マウンドに目を移せば、そこにはエース霊夢が。守備に着く面々もタートルズの選手。
それを観た刹那、私は観客席に座っていた。シーズン中と同じようにメモを取りながら。私の野球に対する情熱が戻ってきたようだ。
 その時選手達が行っていたのは野球というよりはお遊び。適当に打者と投手を決め、打者は点を取れば勝ち、投手は3つアウトを取れば勝ち。そんなルールの「弾幕ごっこ」だ。
 途中からは射命丸をはじめとするメンバーも合流。あの練習嫌いで休日は球場に顔すら出さなかった幽香もその中にいた。幽香にとっても、野球には何か感じる所があったのだろう。
 やはり野球は面白い。エースをあっさり打ち砕いたレミリア、萃香と幽香の力のぶつかり合い、幽々子の伝統芸、フランドールの壮快な場外弾。筋書きの無いドラマとはよく言ったものだ。
 何よりも最後の対決、アリスと魔理沙の戦いは見物だ。監督と選手の関係以上の何かで繋がっている二人。その戦いこそ、この日の対決を締める名勝負だ。アリスの変化球と魔理沙のパワーが真っ向からぶつかる。勝ったのはアリスだ。投手でありながら野手顔負けのパワーを持つ魔理沙を、巧みな変化球で完璧に抑える。
 これでこの日のお遊びは終わったようだ。全員が集まって何かを話していたかと思えば、すぐに解散、それぞれが自分の住処へと帰っていった。それを見届け、私も帰路につく。すっかりあたりは暗くなっていたが、何故か襲われる気がしなかった。まるで見えない何かに守ってもらえているような、そんな感じがした。
 突然幻想郷に表れた球場。野球と言う球技。それは我々人間だけではなく妖精を、妖怪を、幽霊を、神々までもを虜にした。
 この半年間の異変を阿礼乙女は「球宴異変」と名付けた。確かに一つの目的を達成する為に全ての種族が行動を共にする事は異常であり、先の紅霧異変や春雪異変のように異変と呼ぶのが相応しい。
 ただ、これを本当に異変と呼んでいいのだろうか? 『異変』と聞くと、どうしても何か良くない事を想像してしまう。が、今回の球宴異変、我々にとって不都合な事があっただろうか? いや、無い。むしろ我々を楽しませてくれた。この半年の出来事は異変と言うよりも宴と呼んだ方が正しいのではないか?
 その宴を、もう二度と行えない事が大いに残念だ。人間をはじめとする幻想郷の住民は野球を忘れてしまった。これまでのように皆で球場に詰め掛け、売店で買った食べ物を食し、飛んで来るボールを掴みナイフを避け、選手達が織り成すドラマに感動する事は、もう、ない。
 それでも私は信じたい。いつかまた、皆で球場に詰め掛けることを。幻想郷にまた、野球が帰ってくることを。

 幻想郷に住む物が皆野球を忘れてしまっても、タートルズの選手達がいる限り、野球と言う想いは無くならないだろう。

(尚、選手写真は兎虎が行方不明になった為無掲載です。ご了承下さい)

あとがき
僕は亀の歩を、一種の幻想入りみたいに書いた。
『僕』の分身である『虎兎』を幻想郷タートルズに密着させて、その行く末を見守るように書いた。
日本シリーズ終了と同時に野球も忘れてしまった『虎兎』。少女達のプレイを観て、野球は必ず戻ってくると信じた『虎兎』。
本当の僕は、いったい何処にいるんだろうね?
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