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蛙亀の歩 第十回 『全員野球』

 谷繁の打球がショートに転がる。この日三安打一打点と波に乗っている雛が難なく捌いて一塁に送球。一塁手、ついにリーグ第一号の本塁打を打った勇儀のグラブが音を立てる。その瞬間、フロッグスの決勝トーナメント進出が確定した。
 良くも悪くも、フロッグスの野球だった。相変わらず三月精は僅差の試合は任せられそうにない投球を披露し、野手では射命丸の調子がいま一つ。だが勇儀には待望の一発が飛び出し、不安だった中継ぎ陣も静葉の配置転換で厚みが増した。
 どのチームよりも一番早くトーナメント進出を決めたフロッグスだが、好調の秘訣はどこにあるのか。

■恐怖の下位打線

 フロッグスの恐ろしい点は下位打線にある。その象徴とも言える存在が鍵山雛だ。タートルズから移籍してきた選手だが、藍や幽香と違い実績は無きに等しかった。というも、ショートはあの咲夜がレギュラーに君臨しており、穴だったセカンドも美鈴の努力に敗れ、シーズン終盤は二軍暮らしが続いていたからだ。そんな彼女が、フロッグスに移籍して正遊撃手の座を掴むと、シーズンの二軍暮らしが嘘のように打ちまくっている。
「私はタートルズで二度負けた。一度は遊撃手争いをメイドさん(咲夜)に、二度目は二塁手争いを門番さん(美鈴)に。メイドさんはまだいいわ。元々高すぎる能力を持っていたのだし、私自身敵わないと思ってた。けれど二塁手は違う。実力は殆ど同じだったけど、私は努力が足りなかった。気づいた時には、セカンドは門番さんが守っていたわ。もう私は、誰にも負けたくない。二度も負けた身だから、もう恐れる必要なんて無い。ただがむしゃらにやるだけよ」
 元々、実力はあった。しかしその前には咲夜という高すぎる壁と美鈴というライバルがいた。結局競争には負けてしまったが、二つの敗北は屈辱以上に大きなものを雛に与えた。
 雛の好調の秘訣は先述の開き直りもそうだが、もう一つ要因がある。それは打順だ。ほぼ毎試合マルチヒットを記録しているのに、彼女の打順はほぼ八番か九番に固定されている。出塁率の高い雛を上位に据えればそれだけ得点の機会も増えるのだが、彼女はそれを受け入れない。それは何故か。
「以前、調子がいいからと二番を任された。けれど、結果はノーヒットだったわ。あの時は自分が上位だという事を意識しすぎて何をしたらいいのかわからなくなってしまった。やっぱり、細かいことを考えないで打てる八番のほうが、私の性にあってるわね」
 タートルズとの決戦の際、好調を理由に打順が二番に上がった。しかし普段とは違うことを意識しすぎて5タコに1併殺と、勝利に貢献できなかった。二番はケースバッティングを重視される打順で、一打席一打席に全力で挑んでいる雛には荷が重すぎた。だから雛は下位を打っているのだ。

■頼れる控え捕手

 もう一つの要因は控えの選手だ。今日のスタメンマスクは、不調の神奈子に代わってキスメが初めて被った。彼女は今リーグから参加した選手だ。誰もが今日のスタメンの穴だと思っただろう。何しろキスメは妖怪としても大きな力を持っていない。神である神奈子と比較すれば、実力の差は否めない。
 しかしいざ蓋を開けてみれば四打数四安打二打点の大暴れ。リード面でも強打の全セを五安打に抑えるなど、一発を打たれやすいさとりや不安のある中継ぎ陣を巧みに導いた。
「私から見ても、キスメは良すぎる働きをしていたよ。さとりのボールは当たれば飛ぶ。そんな彼女を強打者の多い全セ相手にリードする事はかなり骨が折れたよ。ずっと前から野球を知っている私でさえこうなんだから、キスメはもっと怖かっただろうね。でも(キスメは)ちゃんと自分の仕事をしてくれた。こりゃ、私もうかうかしてられないね」
 全セの打線は三番から八番までが四番打者の経験がある選手だ。どこからでもホームランが打てそうな打線に球の軽いさとりで立ち向かっていくのだ。配球を一度でも間違えると、ボールはスタンドで弾むことになるだろう。
 だがキスメは、恐れを押し込めた強気のリードで全セに挑んだ。二回に小笠原に内角の球をホームランにされたが、それでもキスメは一度打たれたことを承知で内角の球を要求し続ける。あえて打者の得意なコースに投げるのはいつ一発を打たれてもおかしくないが、打者を力ませて打ち損じを狙うこともできる、諸刃の剣の策。
 この諸刃の剣が傷つけたのは全セだった。小笠原の第二打席、初球は内角高めの直球だった。それは本塁打を打たれた時と全く同じ球内角だった。しかし小笠原は力んだのかセカンドフライに倒れる。怖さを押し殺して強気に攻めるキスメのリードが勝ったのだ。
 このように、たとえ主軸の選手が出場しなくとも控えの選手が十分に穴を埋める働きをする。これこそ、全員野球の典型といえるだろう。
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